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編集する人々

  • 起業支援×編集

    起業支援と「たくさんのわたし」

    NPO法人起業支援ネット代表理事

    久野美奈子

    25年以上まえに、母から松岡正剛校長のことを教えてもらったことが入門のきっかけになりました。
    亡くなった母は、『ルナティックス』や『フラジャイル』『空海の夢』を愛読する松岡校長の大ファンでした。

    ■とにかく楽しかった編集稽古

    母は、いま私が代表をつとめている起業支援ネットの創立者で、女性起業家の支援をしていました。
    その一環として開催した講演会に、松岡校長をお呼びしたんです。私はその講演会に、受講生の一人として参加していました。
    それから数年が経って、母のもとに編集学校が開校するという案内が届いたんです。校長のお話もおもしろかったし、ちょうどそのころ育休に入るときだったので、タイミングよく入門することができました。
    入門した教室での稽古が、とにかく楽しかったことをよく覚えています。めくるめく体験でした。
    熱中する私を見て母は「ここまでハマるとは」と驚いてましたね。でも、自分では「編集術がわかった!」と思ったことは一度もありません。

    ■「たくさんのわたし」に出会って

    ひとつ言えるのは「たくさんのわたし」というお題に出会って、私の人生が変わったということです。
    「たくさんのわたし」というのは、「私は◯◯な□□である」という形式で自分を語り直すお題です。
    私は昔から自分の器用貧乏さに若干のコンプレックスを抱えていました。
    例えば、起業支援においても起業家さんは本当に目指したいものを発見したんだろうなと感じるけれど、自分にはなにもないと思っていました。
    でも、「たくさんのわたし」のお題に取り組んで、「すでに『私』はいくつもあるじゃん!」って心から思えたんです。20年以上経った今でも、あのお題が出たときのことはよく覚えています。
    一日中ずっと「私は◯◯」とメモに書き出していました。「食いしん坊な私」「口ばっかりな私」など、社会的に評価される私ではないかもしれないけれど、すでにそこに自分はあったんだと分かり、そのことに本当に救われたんですよね。

    ■相談者が気付いていない「わたし」を発見する

    起業を目指す方の相談を受けるという仕事は、イシスでの師範代の役割とかなり共通しているように思います。相談の時間というのは、いわば一緒に「たくさんのわたし」を発見する時間なんです。
    相談に来てくださるみなさんは、多くの場合、「自分にはこれくらいの経験しかない」とか「起業するには○○が足りない」といった悩みを抱えています。
    私の役割は、相談者が気付いていない「わたし」を見つけ、その人の可能性を開いていくことです。
    そのプロセスはまさに「受容・評価・問い」という師範代の3つの骨法と重なります。私は、目の前の人がご自身のナラティブを語り直すプロセスに立ち会いたいんだと思います。
    自分を語るためには聞き手が必要です。そういうときの「よい聞き手」でありたいと思っています。

    ■世の中の「かすかな声に耳を澄ます」という哲学

    「この人の見ている景色を見たいな」と思ってそれを実践できるのは、イシス編集学校で師範代経験があったからです。
    イシス編集学校の根底に流れるのは、世の中の「かすかな声に耳を澄ます」という哲学だと感じています。平たい言い方をすれば、それは世界や知や人間を信じたり、関心を持ち続けたりすることのあらわれだろうと思います。
    私はそういう世界観に共鳴しているから、20年以上もずっとイシス編集学校に恩義を感じているのだと思います。

     

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  • 医療×編集

    地域の編集文化から医療を立てなおす

    総合診療医
    東洋医学

    華岡晃生

    医学部時代、ハワイと台湾に留学したのですが、その事前研修のときに「日本を勉強するなら、松岡正剛の『日本力』(PARCO出版)を読め」と教えられました。

    ■「氏神を取り戻す」という言葉が響いた

    『日本力』には「氏神を取り戻すということは、村が蘇ることですよね。村が蘇るということは、その村を形成している川、山、泉、池、田んぼ、林が見えてくるということです。
    それが取り戻せると、今度は世界というものが見え始めて、コミュニティとの境界領域がつくられますよね」(p.279)と書かれています。これを読んだとき、いたく感動しました。
    僕はもともと、神社がきれいな地域は土地のパワーが保たれているという持論があり、そのうえでこの本を読んだので、まさにそうだと思ったんです。
    「氏神を取り戻す」という言葉が、地域医療を志す自分にはとても響きました。
    『日本力』のあと、『謎床』(晶文社)を読みました。そこにイシス編集学校のパンフレットが挟まっていました。

    ■郵便番号が生命予後を決める?

    留学経験を経て、社会医学に関心を持ったことも入門のきっかけになりました。
    イギリスの医師・マイケル・マーモット先生や、ハーバード大学のイチロー・カワチ先生の著作にはとても興味深い指摘があります。
    たとえばアメリカでは「生命予後を決めるのは郵便番号だ」という研究結果が明らかになりました。養育歴や幼児教育など環境要因によって寿命などが変わってしまうということに僕はショックを受けました。
    同時にこんな事例も印象的でした。
    日本の移民を追跡してみると、ハワイに住んでいる人とカリフォルニアに住んでいる人とでは食生活はほとんど同じなのに、なぜかハワイに住んでいる人のほうが心臓血管疾患が少ないようなのです。その理由は、もしかしたらハワイは祭りを維持するなど文化的な力が残っているからだ、という仮説です。
    地域による健康格差の問題を見聞きするにつれて、日本の健康を取り戻すためには、地域の力を復活させることが重要なのではないかと思い始めました。
    それが「氏神を取り戻す」という松岡校長の言葉と重なって、イシスで学ぼうと決めました。

    ■生活のなかに編集を落とし込む覚悟

    僕は[守][破]ではぜんぜん目立たない学衆でした。
    [守]のアワードである[番ボー]でも箸にも棒にもかかりませんでした。しかも、当時は大阪の病院で研修していて、東京で開催されたオフ会の「汁講」にも参加できなかったんです。
    でも師範代が僕ひとりのために、大阪出張のタイミングで汁講を開いてくれたりして、そういう熱量にはほんとうに感動しました。
    師範代の指南も「なんで師範代は、いろんなことをこんなによく知っているんだろう?」とすごく不思議でした。
    [守][破]の指南を通して、「師範代ってすごい」「この人たち何者?」という好奇心が募って[花伝所]へ進むことにしました。
    イシス編集学校の学びの中でも特に師範代の経験は大きな節目となりました。
    というのも、それまではまず自分の生活があって、イシスの編集稽古はそこにプラスアルファするものとして考えていましたが、師範代を担当することによって、生活のなかに編集を落とし込む覚悟ができました。それでなんとかやりきったという自信がついたので、[離]にも挑戦できました。

    ■「未病を治す」地域医療のために

    僕は「未病を治す」ということをずっと考えています。
    病になる前の人をどう治していくか。人々の健康を作るためには、医学だけでは足りないと思うんです。
    そのために僕はやはり地域の力を取り戻していくような地域医療にもっと力を入れていきたいと考えています。
    文化や物語などの編集力もひっくるめて医療に動員するために、イシスでずっと学び続けたいと思います。

     

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  • ママ×編集

    ママ師範代を増やすのが私のミッション

    NPO 法人マドレボニータ産後セルフケアインストラクター

    新井和奈

    私は NPO 法人マドレボニータの産後セルフケアインストラクターで、理事と養成事業を担当しています。
    マドレボニータとはスペイン語の「美しい母」という意味です。

    ■産後セルフケア インストラクターの仕事

    仕事では、産後1年未満のお母さんと赤ちゃんといっしょに、オンラインで、ストレッチや産後の体に負担をかけない筋トレのレッスンをしています。
    1回 75 分のレッスンではまず身体をほぐして、そのあと対話のワークをします。
    産後は赤ちゃんのお世話に追われてなかなか自分の時間がとれないお母さんが多いので、対話の時間を通して「私はどうありたい」と自分を主語にして話してもらうことを、とても大事にしています。
    レッスンの最後には毎回、肩こり解消のストレッチや骨盤を起こして座る座り方など、おうちで簡単にできるセルフケアをお伝えします。
    私がイシス編集学校に入門したのは、産後ケアの対面教室に通ってくださっていた方から「とっても合うと思うよ」と勧めてもらったことがきっかけでした。

    ■「すこしずつ私は変わっていっている!」と実感!

    基本コース[守]は、正解が何かわからないことがたくさんあって、でもお題に答えていくことはできて、おもしろかったです。私は多分、他の方より[守]の学衆のときから、いろいろ調べ物をしないと回答できませんでした。少しでもいい回答をしたい、見栄を張りたかったんだと思います(笑)。
    そうやってコツコツ稽古をしていると、「すこしずつ考え方や捉え方が変わっていっている!」と実感できました。師範代から指南をもらうのも、すごく嬉しかったです。
    指南が届くたびに師範代って、すごいなと思っていました。私の仕事はリアルでもオンラインでも人の表情を見ながらレッスンするわけですが、イシスでの稽古はぜんぶメールです。文字だけでもこれほど相手をリスペクトした対話ができるんだと驚きました。それだけのコミュニケーションスキルを、ホスピタリティを、師範代みんなが漏れなく身につけているって「どういうこと?!」ってすごく気になりました。

    ■「アイドル・ママ教室」、深夜2時にスタート

    その師範代の秘密を学べるのが養成コース[花伝所]です。花伝所の稽古や師範代の経験を経て、例えば、他の人が書いたメールを見ても「ああ、ここを直したほうがいいな」と気付けるようになりました。
    でも、[花伝所]の稽古では、師範に不足をずばっと突かれて、悔しくて泣いたこともありました(笑)。
    47[守]では「アイドル・ママ教室」、47[破]では「アイドルそのママ教室」の師範代として登板しました。
    私は三児の母でもあり、その頃は下の子の寝かしつけが必要だったので、夜一緒に寝てから、深夜 2 時くらいにむくっと起きて、夜中静かなときに指南していました。
    学衆さんから回答が来ていると、どうしてもすぐ返したくなるんです。編集稽古を通して、学衆さんたちのいろんな考え方を知ることができるので、それが楽しかったです。

    ■お母さんと師範代は似ている

    イシスで学んで、子どもとの関わり方も変わりました。
    いままでは、子どもに一方的に自分の言いたいことだけ伝えて、プイってそっぽ向かれていましたが、[花伝所]で学んだ方法を実践することで子どもともだんだんいい関係を築けるようになったし、編集術の理解が深まるとともに家族との対話も上手くなったと自覚しています。
    お母さんと師範代は似ているので、いろんなお母さんたちにぜひともイシス編集学校の師範代になってもらいたいです。
    私は自称「師範代製造機」。ママ師範代を増やすのが、イシスでの私のミッションです。

     

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