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ISIS People

編集する人々

  • マーケティング×編集

    MBAより「日本という方法」を選んだ

    マーケティング&ブランディング・ディレクター

    江野澤由美

    入門当時、私はアメリカに本社がある外資系ヘルスケアメーカーでマーケティングの仕事をしていました。それまでも情報を整理する方法や分析する「型」は学んできたつもりでしたが、もっとアイデアで突破していくための「方法」を知りたくなったんです。そんなときに出会ったのが、イシス編集学校でした。

     

    ■それでほんとうに売れるの?

    いつも仕事に対して「こんなものでいいんだろうか?」という違和感を抱いていました。本社やアジアパシフィック支社のMBAホルダーのかっこいいスライドでプレゼンする戦略は、たしかにロジックはしっかりしているけれど、それ以上ではない。私は「それでほんとうに売れるの?」と疑問に思っていました。

     

    ■受講の決め手は「日本という方法」

    そんな中、イシス編集学校が「日本」をベースにしていたことが受講の決め手になりました。外資系企業で働いていた当時の私は、日本人であることにベネフィットを感じていなかったんです。でも、イシス編集学校に出会って、日本語が読める私だからこそ、日本文化に潜む方法を、ここで学ぶことができるのではないか。日本人の私だからこそ理解できる世界がありそうだと、そう思ったんです。それなら欧米人にならってMBAを取りに行くより、イシスの方がいいんじゃないかとピピッと来たわけです。

     

    ■「速くて深い」発想ができる

    [守]に入門して3日目で感動しましたね。2題目のお題で《フィルター》という型を学ぶのですが、お題の指示どおりに連想をはたらかせると、5分で30個のアイデアを出せました。今まで一気にこれほど高速に発想できたことはありませんでした。対象をフィルタリングして、その思考の足跡を振り返るという、これが大事なんだなとわかって、仕事でも稽古で学んだように短時間で集中してアイデア出しするようにしてみました。すると、一気に業務のスピードが上がりました。しかも「速いけど雑」なのではなくて、「速くて深い」発想ができるのがおもしろかったです。

     

    ■イシスの教室とクリエイティブ業界の現場

    イシス編集学校の教室では、クリエイティブ業界での仕事場と似たようなことが起きているんです。今はデザイン会社で働いているのですが、その現場では、たとえば「これってアレと似てるね」「だったら、こっちとこっちをくっつければ」みたいな感じでどんどんアイデアが転がるように変化していきます。この躍動感がイシス編集学校では「方法として読み解かれている!」、だから再現もできるし、深めることだってできる。これには感動しました。

     

    ■企画書の構成も文章の密度が高くなる

    [破]では、まともな文章がはじめて書けるようになったという感触がありました。最初の1ヶ月で学ぶ「知文術」は、よそでは学べないベーシックス、世の中にありそうでないトレーニングだと思います。そこでは多面的に物事を捉え、それをどう限られた文字数に落とし込むのかということを稽古します。4ヶ月の稽古期間でつねに「連想と要約」を意識して文章を書くので、突破後は企画書の構成も文章の密度も高くなったと感じています。書き方が変わると、話し方も変わるので、一石二鳥でした。

     

    ■イシスの方法は仕事に直結する

    師範代養成講座[花伝所]での学びはとくにすごかったです。花伝式目で学んだことをいまでも毎日考えています。花伝所ではコミュニケーションの作法として、相手の《エディティングモデル》を見極めるという方法を学びます。

    例えば、仕事でクライアントからメールをいただくと、それまでだったらその文面だけを見て「こうするべき!」と近視眼的に思い込んでしまっていましたが、花伝所を出たあとはもっと視野を広く持てるようになりました。「このあいだの電話ではこうおっしゃっていたな」とか「あのときの打ち合わせではこんな様子だったな」「そういえばあの人の意図はどうなんだろう」など、1本のメールからバーっと背景情報まで枝葉を伸ばして探れるようになったんです。

    イシスの方法は仕事に直結します。式目の方法を使って仕事をしていると、難しい案件も対応できたり、「親切」とお褒めいただいたり、いいことばかりです。

     

    ⇒インタビュー全文はこちらよりご覧いただけます

  • 宇宙×編集

    宇宙事業の「地」が変わる時代に

    JAXA|宇宙航空研究開発機構 広報
    東京都在住
    守 師範代

    肥後尚之

    2018年6月3日。360度地平線に囲まれたカザフスタンのど真ん中に、ソユーズ宇宙船が着陸しました。JAXA広報部としてその船に搭乗する金井宣茂宇宙飛行士の取材に来てくださった日本のメディアをサポートしました。

    ■国際宇宙ステーションは共生・協働の空間

    その時には、ロシア、アメリカ、日本の宇宙飛行士が乗り込んでいたので、3カ国の関係者たちが皆で一緒に温かく迎えました。長年携わっている国際宇宙ステーションも同様で、その中ではすべてを協働でやります。そこに政治は持ち込まない。そうしないと自分たちの命がかかっていますから。国際宇宙ステーションには、人間が共生・協働する実験という意味もあるように感じています。

    ■各国の異なるアプローチ

    ところが、他方で、各国の方法は様々に異なっていて興味深い。たとえば、宇宙では重力がないのでボールペンが使えません。そのため米国は無重力でも使えるボールペンを大金をかけて開発したが、ロシアは鉛筆を使うことにした。これは両国の設計思想をネタにした笑い話なのですが、一事が万事、本当にこのような調子で、何かあると一から開発して解決しようとする米国と、すでにある手近なもので解決しようとするロシア、この対比が本当に興味深いですね。こういうエピソードは、編集学校の守で学ぶ「地と図」に通じます。各国の考え方(地)が異なるので、出てくるソリューション(図)が全く変わります。

    ■宇宙事業の「地」が変わる

    今は宇宙事業の転換期だとみています。宇宙はこれから「地」をいくらでも変えられると思っています。というのも、今まで宇宙事業は国が行なうものでした。しかしアメリカでは民間企業がロケットを製造しているだけでなく、今までは使い捨てだったロケットを回収して再利用できるようにしました。これで打ち上げ費用が激減すると言われています。また国際宇宙ステーションに人を運ぶカプセルも開発中で、もうすぐ実用化されます。変わるはずがないと思っていた「地」が変わってきています。

    ■メディアの力で宇宙を伝える

    そうした変わりつつある宇宙について、多くの方に興味を持って頂くのが、JAXA広報としての任務でもありますが、編集学校に出会ってから、よりメディアの力を理解するようになりました。同じ情報でも、メディアによって伝わり方が違います。例えば「宇宙兄弟」という小山宙哉さんの人気マンガにご協力する機会がありましたが、マンガで表現されることによって、より幅広い層の方々に宇宙を身近に感じて頂くことにつながっています。松岡校長が近畿大学とつくったアカデミックシアターにも置いてあるそうです。『宇宙兄弟』は未来の話ですから、これからをシミュレーションしている気分になれるのもまた楽しいものです。

    ■編集をどう工学するのか

    宇宙と編集工学の接点は、実は丸の内にあったともいえます。2009年頃、JAXAは丸の内オアゾにオフィスがあり、近くに小さな展示コーナーを構えていました。また松岡校長がプロデュースした松丸本舗も、ちょうどその向かいの丸善オアゾにありました。よく通ったものです。これからは、工学を専門としてきた者として「編集工学」を捉えなおし、編集をどうエンジニアリングしていくかを、さらに探究していきたいと考えています。宇宙に興味を持った方々が、私という存在を通して、編集工学に興味を持ってくだされば幸いです。

    先達文庫
    湯川秀樹『宇宙と人間七つのなぞ』

    TEXT:松原朋子

    2018年7月末に種子島で公開した機体htv#7

    ソユーズ打ち上げ対応時、ソユーズ宇宙船の前にて

    NASA広報のGaryさん(左)と肥後さん(右)

  • ゴミ×編集

    ぼくが諦めればそれはゴミになるけれど

    フリーライター
    防災ファシリテーター
    認定NPO法人BHNテレコム支援協議会

    瀬戸義章

    単純化すること、わかりやすくすること、便利にすること、効率的にすることで、ぼくらは複雑をどんどん忘れていってしまっていないか。ゴミ問題も「見方」の問題です。ぼくが洗って使いなおせばそれは水筒になるし、ぼくが見立てればそれはロケットや塔になるし、ぼくが諦めればそれはゴミになります。

    ■東南アジア遍歴、東日本大震災、そして

    「作家になりたい」と言って会社を辞め、バックパッカーで東南アジアを旅しました。前職がリサイクル業で日本の古着や中古家具などをアジアに輸出していたこともあり、旅のテーマは「ゴミ」。日本の粗大ゴミが現地でどのように思われているのか? 現地では何が捨てられているのか? どんなリサイクルの取り組みをしているのか? 東南アジア最貧国の東ティモールを含め7カ国を見て回りました。2010年のことでした。

    そして帰国後、東日本大震災が起こりました。半年ほど東北で復興支援をして感じたのは、先進国も災害時にはインフラのない途上国の僻地とそう変わらない状況になるんだということ。つまり、途上国向けの適正技術のプロダクトは先進国でも役に立つわけです。実際に石巻の避難所で途上国向けのソーラーランタンが使われたりもしました。

    編集学校を受講したのは、ちょうどその頃。私生活で落ち込むことが多く、過激なリハビリテーションをするつもりで飛び込みました。体験コースで編集工学研究所を訪れた際、ジャングルのような蔵書を見て「この並び方に意味はあるんですか?」と質問したところ「並び方そのものが意味なんだよ」と。編集の本質に初めて触れた瞬間でした。

    震災の翌年にはフリーライターを始め、「発展途上国向け製品の発明コンテスト」(一般社団法人コペルニク・ジャパン主催)に参加。途上国向けの物流サービスアプリを提案しました。しかし、現地の文化を理解しないままこちらのアイデアを押し付けた形になり、東ティモールでの導入はうまくいきませんでした。

    ■携帯できるラジオ局をインドネシアに展開

    転機が訪れたのは2014年です。世界銀行がアジア地域で開催した防災発明コンテストに、仲間を誘って参加しました。防災に役立つアプリケーションをスマホで。でも、災害時にインターネットなんか使えない。役立つメディアはラジオだ。MP3プレイヤーからFMで飛ばしてカーラジオで聞くガジェットに想を得て、「スマホを使って本格的なラジオ放送できる装置を格安で作ろう」と考えました。

    技術のある人に協力を仰ぎながら発明したのが、スマホアプリと小型FM送信機を組み合わせた、携帯できるラジオ局「バックパックラジオ」です。業務用の100分の1の価格で組み立てることができ、緊急時に避難所でラジオ放送することができます。これであれば「途上国の平時でも、先進国の有事でも、両方で役立つ適正技術」になれると思ったのです。

    当初は外国語もアプリ開発も無線技術も素人でしたが、アイデアを伝えて専門家を巻き込んでいき、かたちになったモノをまた伝えて資金調達をし、2018年春、インドネシアの噴火災害が多発するムラピ山周辺のラジオ局に「バックパックラジオ」を8台無償提供してきました。これにより災害の警告、復旧、復興に関する情報を自らコミュニティに発信することが可能になり、放送エリアに住む人々が安全に生活することができるようになります。

    ■汎アジア的な「思考の道具」をツール化したい

    国際問題や社会課題に触れていくと「解決」という言葉が嘘っぽく見えてきます。難民問題も貧困問題も食糧問題も環境問題も解決なんかしません。ラジオ装置があったからといって災害は解決なんかしません。火山はいつでも噴火します。ただ、それまでメディアが無かったような人々が、ラジオという編集的自由度の高い「白紙」を手にすることで、より暮らしを豊かにできる新たな可能性が生まれるとは思っています。

    [守][破][遊:物語][離]と受講し、[離]を終えた直後にインドネシアを訪れた際、そこでイスラムの建築家からバリ島の住居を模式化した「マンダラ・システム」を見せてもらい、その概念図に「自然」と「超自然」という項目があることにハッとしました。東ティモールで物流アプリを導入して失敗したのは、このような本来なら社会にあるべき思想を無視したからだと気づいたからです。この図を発展させることで、汎アジア的な「思考の道具」がつくれるのではないかと思っています。その為には編集学校で学んだ「生きたシステム」が大切だと思うので、まずは家庭菜園を借りて森を創ってみるつもりです。

    編集稽古によって大きく変化したことの一つは、ものごとの樹形的な歴史を意識するようになったこと。そして「情報」という目には見えないものを、まるで粘土を手で好きな形にこしらえるように扱えるようになったことです。

    世界の複雑さを、複雑なまま受けとめることのできる「見方」を、外部装置として、思考の道具として、生きた建築として、なんらかの表象で用意できたら。いろんな個人・組織を柔らかく貫いて、自由をもたらすためのツールを提供していきたいです。

    TEXT:後藤由加里

     

    ⇒過去のインタビュー記事はこちらからこご覧いただけます

    インドネシアのコミュニティラジオ局会議でバックパックラジオを紹介

    バックパックラジオ導入(2018年3月、インドネシア)

    インドネシアのコミュニティラジオのひとつ「リンタス・ムラピ」視察

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