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編集する人々

  • 宇宙×編集

    宇宙事業の「地」が変わる時代に

    JAXA|宇宙航空研究開発機構 広報
    東京都在住
    守 師範代

    肥後尚之

    2018年6月3日。360度地平線に囲まれたカザフスタンのど真ん中に、ソユーズ宇宙船が着陸しました。JAXA広報部として、その船に搭乗する金井宣茂宇宙飛行士の取材に来てくださった日本のメディアをサポートしました。

    ■国際宇宙ステーションは共生・協働の空間

    その時には、ロシア、アメリカ、日本の宇宙飛行士が乗り込んでいたので、3カ国の関係者たちが皆で一緒に温かく迎えました。長年携わっている国際宇宙ステーションも同様で、その中ではすべてを協働でやります。そこに政治は持ち込まない。そうしないと自分たちの命がかかっていますから。国際宇宙ステーションには、人間が共生・協働する実験という意味もあるように感じています。

    ■各国の異なるアプローチ

    ところが、他方で、各国の方法は様々に異なっていて興味深い。たとえば、宇宙では重力がないのでボールペンが使えません。そのため米国は無重力でも使えるボールペンを大金をかけて開発したが、ロシアは鉛筆を使うことにした。これは両国の設計思想をネタにした笑い話なのですが、一事が万事、本当にこのような調子で、何かあると一から開発して解決しようとする米国と、すでにある手近なもので解決しようとするロシア、この対比が本当に興味深いですね。こういうエピソードは、編集学校の守で学ぶ「地と図」に通じます。各国の考え方(地)が異なるので、出てくるソリューション(図)が全く変わります。

    ■宇宙事業の「地」が変わる

    今は宇宙事業の転換期だとみています。宇宙はこれから「地」をいくらでも変えられると思っています。というのも、今まで宇宙事業は国が行なうものでした。しかしアメリカでは民間企業がロケットを製造しているだけでなく、今までは使い捨てだったロケットを回収して再利用できるようにしました。これで打ち上げ費用が激減すると言われています。また国際宇宙ステーションに人を運ぶカプセルも開発中で、もうすぐ実用化されます。変わるはずがないと思っていた「地」が変わってきています。

    ■メディアの力で宇宙を伝える

    そうした変わりつつある宇宙について、多くの方に興味を持って頂くのが、JAXA広報としての任務でもありますが、編集学校に出会ってから、よりメディアの力を理解するようになりました。同じ情報でも、メディアによって伝わり方が違います。例えば「宇宙兄弟」という小山宙哉さんの人気マンガにご協力する機会がありましたが、マンガで表現されることによって、より幅広い層の方々に宇宙を身近に感じて頂くことにつながっています。松岡校長が近畿大学とつくったアカデミックシアターにも置いてあるそうです。『宇宙兄弟』は未来の話ですから、これからをシミュレーションしている気分になれるのもまた楽しいものです。

    ■編集をどう工学するのか

    宇宙と編集工学の接点は、実は丸の内にあったともいえます。2009年頃、JAXAは丸の内オアゾにオフィスがあり、近くに小さな展示コーナーを構えていました。また松岡校長がプロデュースした松丸本舗も、ちょうどその向かいの丸善オアゾにありました。よく通ったものです。これからは、工学を専門としてきた者として「編集工学」を捉えなおし、編集をどうエンジニアリングしていくかを、さらに探究していきたいと考えています。宇宙に興味を持った方々が、私という存在を通して、編集工学に興味を持ってくだされば幸いです。

    先達文庫
    湯川秀樹『宇宙と人間七つのなぞ』

    TEXT:松原朋子

    2018年7月末に種子島で公開した機体htv#7

    ソユーズ打ち上げ対応時、ソユーズ宇宙船の前にて

    NASA広報のGaryさん(左)と肥後さん(右)

  • ゴミ×編集

    ぼくが諦めればそれはゴミになるけれど

    フリーライター
    ジャーナリスト
    防災ファシリテーター
    ゲームクリエイター
    認定NPO法人 BHNテレコム支援協議会
    神奈川県在住

    瀬戸義章

     単純化すること、わかりやすくすること、便利にすること、効率的にすることで、ぼくらは複雑をどんどん忘れていってしまっていないか。ゴミ問題も「見方」の問題です。ぼくが洗って使いなおせばそれは水筒になるし、ぼくが見立てればそれはロケットや塔になるし、ぼくが諦めればそれはゴミになります。

    ■東南アジア遍歴、東日本大震災、そして

     「作家になりたい」と言って会社を辞め、バックパッカーで東南アジアを旅しました。前職がリサイクル業で日本の古着や中古家具などをアジアに輸出していたこともあり、旅のテーマは「ゴミ」。日本の粗大ゴミが現地でどのように思われているのか? 現地では何が捨てられているのか? どんなリサイクルの取り組みをしているのか? 東南アジア最貧国の東ティモールを含め7カ国を見て回りました。2010年のことでした。

     そして帰国後、東日本大震災が起こりました。半年ほど東北で復興支援をして感じたのは、先進国も災害時にはインフラのない途上国の僻地とそう変わらない状況になるんだということ。つまり、途上国向けの適正技術のプロダクトは先進国でも役に立つわけです。実際に石巻の避難所で途上国向けのソーラーランタンが使われたりもしました。

     編集学校を受講したのは、ちょうどその頃。私生活で落ち込むことが多く、過激なリハビリテーションをするつもりで飛び込みました。体験コースで編集工学研究所を訪れた際、ジャングルのような蔵書を見て「この並び方に意味はあるんですか?」と質問したところ「並び方そのものが意味なんだよ」と。編集の本質に初めて触れた瞬間でした。

     震災の翌年にはフリーライターを始め、「発展途上国向け製品の発明コンテスト」(一般社団法人コペルニク・ジャパン主催)に参加。途上国向けの物流サービスアプリを提案しました。しかし、現地の文化を理解しないままこちらのアイデアを押し付けた形になり、東ティモールでの導入はうまくいきませんでした。

    ■携帯できるラジオ局をインドネシアに展開

     転機が訪れたのは2014年です。世界銀行がアジア地域で開催した防災発明コンテストに、仲間を誘って参加しました。防災に役立つアプリケーションをスマホで。でも、災害時にインターネットなんか使えない。役立つメディアはラジオだ。MP3プレイヤーからFMで飛ばしてカーラジオで聞くガジェットに想を得て、「スマホを使って本格的なラジオ放送できる装置を格安で作ろう」と考えました。

     技術のある人に協力を仰ぎながら発明したのが、スマホアプリと小型FM送信機を組み合わせた、携帯できるラジオ局「バックパックラジオ」です。業務用の100分の1の価格で組み立てることができ、緊急時に避難所でラジオ放送することができます。これであれば「途上国の平時でも、先進国の有事でも、両方で役立つ適正技術」になれると思ったのです。

     当初は外国語もアプリ開発も無線技術も素人でしたが、アイデアを伝えて専門家を巻き込んでいき、かたちになったモノをまた伝えて資金調達をし、2018年春、インドネシアの噴火災害が多発するムラピ山周辺のラジオ局に「バックパックラジオ」を8台無償提供してきました。これにより災害の警告、復旧、復興に関する情報を自らコミュニティに発信することが可能になり、放送エリアに住む人々が安全に生活することができるようになります。

    ■汎アジア的な「思考の道具」をツール化したい

     国際問題や社会課題に触れていくと「解決」という言葉が嘘っぽく見えてきます。難民問題も貧困問題も食糧問題も環境問題も解決なんかしません。ラジオ装置があったからといって災害は解決なんかしません。火山はいつでも噴火します。ただ、それまでメディアが無かったような人々が、ラジオという編集的自由度の高い「白紙」を手にすることで、より暮らしを豊かにできる新たな可能性が生まれるとは思っています。

     [守][破][遊:物語][離]と受講し、[離]を終えた直後にインドネシアを訪れた際、そこでイスラムの建築家からバリ島の住居を模式化した「マンダラ・システム」を見せてもらい、その概念図に「自然」と「超自然」という項目があることにハッとしました。東ティモールで物流アプリを導入して失敗したのは、このような本来なら社会にあるべき思想を無視したからだと気づいたからです。この図を発展させることで、汎アジア的な「思考の道具」がつくれるのではないかと思っています。その為には編集学校で学んだ「生きたシステム」が大切だと思うので、まずは家庭菜園を借りて森を創ってみるつもりです。

     編集稽古によって大きく変化したことの一つは、ものごとの樹形的な歴史を意識するようになったこと。そして「情報」という目には見えないものを、まるで粘土を手で好きな形にこしらえるように扱えるようになったことです。

     世界の複雑さを、複雑なまま受けとめることのできる「見方」を、外部装置として、思考の道具として、生きた建築として、なんらかの表象で用意できたら。いろんな個人・組織を柔らかく貫いて、自由をもたらすためのツールを提供していきたいです。


    TEXT:後藤由加里

    インドネシアのコミュニティラジオ局会議でバックパックラジオを紹介

    バックパックラジオ導入(2018年3月、インドネシア)

    インドネシアのコミュニティラジオのひとつ「リンタス・ムラピ」視察

  • 居場所×編集

    ゆい」という集まりを再興する

    野村英司さんプロフィール写真

    寺子屋豆鉄砲 塾長(私塾)
    synapseオーナー(移動販売)
    愛知県在住
    守師範代

    野村英司

     従来型の「教室」という空間では、不特定多数の人たちとの関わりの中でお互いが学びあうことはなかなか難しいものです。でも実際にはそれがとても刺激的です。「寺子屋豆鉄砲」の青空ワークショップ活動では、子供たち同士が関わりの中で相互に学びあう場をつくっています。自身で考案したゲームを持ち出して、子供たちと楽しんでいます。

    ■地域の子供たちが集える場

     10年ほど前から、自宅で学習塾をひらいて、地域の子供たちが集える場をつくってきました。そのなかで子供たちの創造的な部分に触れるたびに、自分がどこまでどのように関わったらよいのかと、距離や深度を模索していました。そのヒントになるのではないかと考えたことが、イシス編集学校に関心を持ったきっかけのひとつです。

    ■塾の壁は全面黒板

     編集学校では最初のお題に回答して、師範代から指南をいただいた時に、まず教室の設えに感嘆しました。イシス編集学校の「教室」は、従来の学校教育で体験する教室とは違います。参加メンバーの回答とその思考のプロセスが共有されます。このことで生まれる自分への影響を、自分の設える場へも活かしたいと、すぐに学習塾の壁を全面黒板に改修しました。自由に黒板を子供たちが使えるようになって、みんな喜んで黒板に落書きをして、子供たち同士の思考のプロセスが共有できるようになりました。

    ■青空ワークショップで言葉や甲骨文字で遊ぶ

     今は、学習塾を飛び出して、青空ワークショップの活動に力を入れています。塾でやっていたゲーム性のあるコンテンツを持ち込んで青空教室をやると、不特定多数の子供がやって来て、学びあいの場になるのがおもしろいです。

     たとえば、ランダムに言葉を並べ、それをテーマにお絵かきをするゲームでは、テーマを聞いてまず大笑い。続いて絵を描きます。それぞれが表現した全く違ったものを見比べて再び笑いあい、次に他の場面をつくっていきます。また、甲骨文字を用いたワークショップでは、最初は文字の成り立ちに聞き入るばかり。続けるうちに「この甲骨文字は前のアレに似ているから~」とか「この文字の組み合わせは~」などと、子供たちがわいわい騒ぎながら、甲骨文字から漢字へとイメージの連想で考えていけるようになります。

    ■遊ぶように学ぶ空間づくり

     子供の感覚は本来柔らかいものですが、既に定義づけられたモノを暗記するという事を「学び」と捉えることが多いなかで、成長するにつれて柔らかい部分が失われていくように思います。遊びの延長に学びがあり、学びの根本に遊びがあるという事を体感できるようなワークや空間づくりに力を入れていきたいです。また、既にそういった活動をされている方や団体とネットワークしたいと思っています。

    ■世の中に、もっと「結」を

     編集学校で出会った「結」(ゆい)という概念は、元々、地域社会内の家で相互に行われる対等な労力交換、相互扶助のこと。日本の伝統的な社会にかつてから「結・講・座・連・組・社」などが躍如していたもので、何かコトがある時に人が集まってやり遂げる場のことをいいます。僕はそうした集まりが世の中にもっと再興するといいなと思っていて、子供たちが集う場をひらいたりしているのも、この結のイメージからです。結はお互いの創造性をさらに引き出す場となります。また、現在、街づくりなどで「共働」「シェア」と新しいアイデアかのように喧伝される言葉は、忘れられつつある結の要請とも感じます。

     多元的な「関わり」を通して多くの自分の側面に気がつくことは、柔らかい子供の感覚を醸成することのみならず、社会的弱者にとっての心地よい居場所をつくることにもつながる方法ではないでしょうか。

    先達文庫
    小菅桂子『カレーライスの誕生』


    TEXT:松原朋子

    子供たちの連想力を引き出す甲骨文字を使った青空ワークショップ

    子供たちの想像力を刺激する全面黒板

    地域の子供たちが集う寺子屋豆鉄砲

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