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編集する人々

  • 地域×編集

    一座を編集すること

    ヴァンキコーヒーロースター
    名古屋支所「曼名伽組」組長
    愛知県在住

    小島伸吾

     編集稽古での学びは、個的な表現活動でなく、他者との関係において「共」的に実践されゆくものです。
     美術学校で版画を学んでいた頃、版画の「型」について本来的なことを知りたかった。でも「型」を語れる教授どころか「方法」を意識する美術家すら周囲にいなかった。「型」を「写す」とは、いったい何なのか? ずっと探し続ける中で編集学校との出会いがありました。

    ■「面影」を方法化、共有したい

     私は今、近代以降に失われつつある「面影」のコンセプトを研究し、方法化し、どうすれば新たな実践に移せるかに挑戦しています。これは松岡さんと同時代に生きる者の責任です。私たちの活動が次世代へのジョイントになり、職人、芸能、芸術などの世界で「面影」が共有していけることを目指します。

     その取り組みとして、私は他者との関係をつくるための4つの場、「店」「座」「講」「組」を作っています。まずは「店」。仕事場でもあるヴァンキコーヒーロースターです。ここはいわば編集を仕掛ける“装置”です。

     初めは店だけでイベントなどを企画していましたが、活動領域に限界があり、『ナゴヤ面影座』と『番器講』を設けました。これらの場では、講演企画、ライブ演奏、読書会、紙芝居上演などを開催しています。また、2003年の立ち上げ以来活動を続けている編集学校の名古屋支所「曼名伽組」の活性化も継続中です。

    ■動的システム「座」を社会に投じる

     編集学校では「もてなし・ふるまい・しつらい」を大事にしますが、イベント現場で自分なりに実践していると、入念な用意と本番での卒意の相互誘導合致を感じます。そして会の導入や閉め、転換時の「際」の重要性。他者と一つの世界を作り上げていくひとときは、「思考の速さ≒深さ」が問われる絶好の編集機会です。

     今、自分のミッションとして捉えているのは「2050年までに、世の中に何が引き継げるかということです。2000年に始まった編集学校の取り組みの延長として何ができるか。当面は『ナゴヤ面影座』において、動的な方法そのものである「座」というシステムを考え、同朋を集め、ベースづくりをしたうえで、モノづくりや表現活動を展開していきたいと考えています。

     「私」でもない「我が社」でもない「座」という生命体を社会に投じて、世の中を編集していきたいです。

    先達文庫
    アントナン・アルトー『ヴァン・ゴッホ』
    ジョイス『若い芸術家の肖像』

    第三講面影座「量子の国のアリス」。佐治晴夫博士を客人に、帽子屋に扮して

    面影座の各講ごとに刊行しているブックレット「Ur(ウア)」

  • 医療×編集

    医療も編集も、プロセスが大事

    順天堂大学練馬病院
    病理医
    東京都在住
    破師範・離右筆

    小倉加奈子

     人と病の“あいだ”にある医療は、編集の泉です。編集稽古は私に、診断のプロセスを客観的に捉えられる見方を与えてくれました。様々な世の中の出来事と医療を関係づけて思考できるようになりました。さらには、花伝所のプログラムで、後輩の指導から子育てまで、編集的なコーチングをマスターできたことで、良い意味での公私混同編集術を体得し、より発見的な毎日を送れるようになりました。

    ■医療はあらゆる「編集」を必要とする

     私の仕事は病理医、がん検査を受けた患者さんの向こう側にいるメッセンジャーです。
     医療はまさに編集です。その中でも、患者さんの主訴や検査結果等、様々な情報を集めて、分類して、鑑別疾患を順位づけし、治療法を選択していく病理診断は、とにかくすべてが編集的。細胞の「らしさ」を観察する、とびきり方法的な仕事です。

     普段は大学の附属病院の病理診断科で、患者さんの細胞や組織を顕微鏡で観察し、そして病理診断を下す「病理診断」という診療業務とともに、病理医をめざす若い先生の指導も行っています。
     一方で、病理医の存在はさほど注目されていません。そこで一般の方々に広く知ってもらうため、日常業務だけでなく、NPO活動で病理診断体験セミナーの企画や健康サイト等の連載で病理医の魅力を伝えています。

    ■医療も社会も、方法を大切に

     医療も社会も、結果だけを求められがちな今だから、どれだけプロセスに注目した方法が模索できるかが大事だと感じています。便利になり選択肢も増え、方法が多様になっていく中、子どもたちが夢を持ち、大人も精神的に豊かな生活を送れるような世の中を編集し続けていきたいです。

    高校生を対象とした病理診断セミナー

    ワークショップでも後輩指導でも対話を大切にしている

  • アート×編集

    文化と経済の新しい循環へ

    ライター・エディター
    京都岡崎魅力づくり推進協議会マネジャー
    春秋山荘ディレクター
    京都在住
    破師範・離右筆

    福田容子

     ディレクターとして運営に携わる春秋山荘や、そこを拠点とするアートプロジェクト「森村泰昌MoriP100プロジェクト」は、「経済と文化の新しい循環」への挑戦。お金ではない別様の価値で動くアートと人の関係を育てようとしています。お金だけが価値基準となる時代が終わりゆくなかで、そうした世界観を言葉にして伝えること、共鳴する人々をつなぐことが私の役割だと考えています。

    ■京都・山科から拡がる多軸多色なアート展

     山科にある春秋山荘は滋賀県から移築した築150年ほどの古民家で、『夜想』編集長の今野裕一さんが京都の活動拠点として展開を始めたものです。展覧会、茶会、トークイベント、ワークショップなど、多軸多色にユニークな企画を開催しています。私はその運営をボランタリーなディレクターとして手伝っています。なかでも2017年からスタートした森村泰昌MoriP100プロジェクトは、会期中のイベント企画、現場運営、ワークショップのナビゲーターなど、さまざまに関わり注力しています。

    ■チームが自己組織化していく

     森村さんはこのMoriP100プロジェクトについて、What(何を)とHow(どうやって)については語られますが、Why(なぜ)について、本当のところは伏せて語られてないと思うんですね。ですから、関わるチームメンバーがそれぞれ自分なりにプロジェクトの「真のWhy」を読み解いて意味づけしていくことになります。関わる人たちが自律的に動き、意図や意思が自然発生的に立ち上がっていくこのチームのあり方は、私の考える編集的創発そのもの。また、多様な見方が相互共鳴して意味が深まっていくところは、まさに「インタースコア」です。

    ■これからの世界観を言葉で伝え、人をつなぐ

     編集学校では、ここにこなければ一生接点がなかったような異業種・異世界の人とごろごろ出会えます。そういう人達と一緒に学ぶことで開かれた自由は大きいですね。春秋山荘のプロジェクトに関わり始めたのも編集学校の先輩である大音さんにお声がけいただいたことがきっかけ。私にとって大事な出会いになりました。カチッとスイッチが入ってチームが起動していく鍵を握るのは、やはり「人」。一緒に将来を見つめられる仲間を常に探し続けているのかもしれません。

    先達文庫
    ジャンバッティスタ・ヴィーコ『自伝』
    シモーヌ・ヴェーユ『根をもつこと』 

    「森村泰昌MoriP100プロジェクト」取材立会(2017年 春秋山荘)

    企画編集を行う春秋山荘ニュースレター。紙版に加え電子版での出版も

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