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ISIS People

編集する人々

  • 投資×編集

    投資とは「指南」である

    株式会社アルバクロス代表取締役
    ベンチャーキャピタリスト

    鈴木亮太

    私は長らく投資業務に携わってきました。2015年からみずほ証券プリンシパルインベストメント代表取締役を務め、2021年に株式会社アルバクロスを創業しました。イシス編集学校への入門は、前例のない仕事を任されたことがきっかけでした。

     

    ■未知の仕事で成果を上げるために

    イシス編集学校へ入門した当時、私は興銀証券(現みずほ証券)で働いていました。2000年にコンサルティングファームなどと合弁で投資会社を作ることになり、そのような未知の仕事を現場サイドとして担当するときに、どうやったら仕事の成果が上げられるのかを考えていたのです。そのとき、松岡正剛校長の著書『知の編集工学』に出会いました。

     

    ■編集工学の型とフレームワークの違い

    まず、入門して2ヶ月目に学ぶ《編集思考素》にハマりました。編集思考素では、たとえば《三間連結》など3つの情報を扱う型を学ぶのですが、これを知ったとき、これまで仕事で抱えていた「気持ち悪さ」の原因が初めて理解できました。

    仕事では「この会社の長所を3つ挙げよう」などというとき、メンバーの挙げてくる項目のレイヤーが揃わなくて気になっていました。それを指摘しても「それって趣味の問題ですよね」と片付けられてしまうのですが、編集工学として体系立てて学ぶと、レイヤーが揃っていないというのは、たとえば「《情報の地》がズレている」とか「《フィルター》が異なっている」などと説明がつくことがわかりました。

     

    ■師範代のような仕事仲間がほしい

    また、仕事をしていて、「チームに師範代がいたらな」とよく思います。前期49[守]で師範を務めて、そこには2つの理由があることがわかりました。

    ひとつめは、コミュニケーションの潤滑油として役割です。師範代は、師範と学衆のあいだをつなぎます。組織でもいくつかの階層のあいだや、内部と外部をつなぐことができる人がとても重要です。これは効率的に組織をまわす役割ですが、師範代はそれだけではないのがすごいところです。もうひとつ、創発を促すという役割が師範代にはあります。大事なのは、このふたつが両立していることです。

     

    ■投資とは「南」を失わないこと

    編集学校では「指南」という言葉を使いますが、仕事で大切なこともまさに「南」を見失わないことです。私は投資の仕事に長らく携わってきました。そこで、若いメンバーが「これに投資したいです」と提案をもってくることがあります。そのときに私がかならず尋ねるのは「そのビジネス、好きなの?」ということです。するとたいてい、「……儲かると思いますよ」というわけです。

    投資というのは、過去の情報を整理して、未来で成果を得るビジネスです。未来には何が起こるかわかりません。そしてたいてい、ろくでもないことが起こります(笑)。そういうときに、儲かることだけしか考えていないとギブアップしてしまいます。でも、「自分はこういう理由でこれが好きだ」とか「これは社会に残すべき仕事だ」と思えたら逆境でも踏ん張れるわけです。

     

    ■社長業でも活きる編集術

    代表に就任してからも編集稽古が活きたと感じられることが大きく2つありました。ひとつは、さきほど師範代としての方法でもお話したとおり、《エディティング・モデルの交換》が意識的にできたことです。

    私が社長を務めていたときは、社員は全員外部採用でした。つまり、全員が新人時代に異なる社会人教育を受けていることになります。このように、まったくバックグラウンドが違う人たちをひとつの組織に束ねることが、もし師範代としての経験がなかったら、難しかったのではないかなと思います。

    もうひとつ、応用コース[破]の4ヶ月目に学んだ《プランニング編集術》の経験も役に立ちました。社長として、新しい分野にも挑戦したのですが、それを親会社に説明するときなど、《よもがせわほり》というプランニングの型を意識することで、説得力ある説明ができました。

     

    ■リベラルアーツを学ぶ場として

    今は東大の研究室のアドバイザーとしても仕事をしています。最近の学生は社会課題に対して敏感で、彼らを後押ししていくことは社会変革につながると考えています。

    私は工学部の学生を相手にすることが多いのですが、日本の工学部には、高専から編入してくる学生もいます。彼らは中学校を卒業した15歳から20歳まで、5年間みっちり実地で鍛えられているので、かなりポテンシャルが高いんです。ただし、大学で一般教養を学んでいないことに悩んでいたりもします。そんな彼らに情報を自在に動かすためのリベラルアーツを学ぶ場として、イシス編集学校が関わっていく未来もおもしろいと思います。

    TEXT:金宗代

     

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  • マーケティング×編集

    MBAより「日本という方法」を選んだ

    マーケティング&ブランディング・ディレクター

    江野澤由美

    入門当時、私はアメリカに本社がある外資系ヘルスケアメーカーでマーケティングの仕事をしていました。それまでも情報を整理する方法や分析する「型」は学んできたつもりでしたが、もっとアイデアで突破していくための「方法」を知りたくなったんです。そんなときに出会ったのが、イシス編集学校でした。

     

    ■それでほんとうに売れるの?

    いつも仕事に対して「こんなものでいいんだろうか?」という違和感を抱いていました。本社やアジアパシフィック支社のMBAホルダーのかっこいいスライドでプレゼンする戦略は、たしかにロジックはしっかりしているけれど、それ以上ではない。私は「それでほんとうに売れるの?」と疑問に思っていました。

     

    ■受講の決め手は「日本という方法」

    そんな中、イシス編集学校が「日本」をベースにしていたことが受講の決め手になりました。外資系企業で働いていた当時の私は、日本人であることにベネフィットを感じていなかったんです。でも、イシス編集学校に出会って、日本語が読める私だからこそ、日本文化に潜む方法を、ここで学ぶことができるのではないか。日本人の私だからこそ理解できる世界がありそうだと、そう思ったんです。それなら欧米人にならってMBAを取りに行くより、イシスの方がいいんじゃないかとピピッと来たわけです。

     

    ■「速くて深い」発想ができる

    [守]に入門して3日目で感動しましたね。2題目のお題で《フィルター》という型を学ぶのですが、お題の指示どおりに連想をはたらかせると、5分で30個のアイデアを出せました。今まで一気にこれほど高速に発想できたことはありませんでした。対象をフィルタリングして、その思考の足跡を振り返るという、これが大事なんだなとわかって、仕事でも稽古で学んだように短時間で集中してアイデア出しするようにしてみました。すると、一気に業務のスピードが上がりました。しかも「速いけど雑」なのではなくて、「速くて深い」発想ができるのがおもしろかったです。

     

    ■イシスの教室とクリエイティブ業界の現場

    イシス編集学校の教室では、クリエイティブ業界での仕事場と似たようなことが起きているんです。今はデザイン会社で働いているのですが、その現場では、たとえば「これってアレと似てるね」「だったら、こっちとこっちをくっつければ」みたいな感じでどんどんアイデアが転がるように変化していきます。この躍動感がイシス編集学校では「方法として読み解かれている!」、だから再現もできるし、深めることだってできる。これには感動しました。

     

    ■企画書の構成も文章の密度が高くなる

    [破]では、まともな文章がはじめて書けるようになったという感触がありました。最初の1ヶ月で学ぶ「知文術」は、よそでは学べないベーシックス、世の中にありそうでないトレーニングだと思います。そこでは多面的に物事を捉え、それをどう限られた文字数に落とし込むのかということを稽古します。4ヶ月の稽古期間でつねに「連想と要約」を意識して文章を書くので、突破後は企画書の構成も文章の密度も高くなったと感じています。書き方が変わると、話し方も変わるので、一石二鳥でした。

     

    ■イシスの方法は仕事に直結する

    師範代養成講座[花伝所]での学びはとくにすごかったです。花伝式目で学んだことをいまでも毎日考えています。花伝所ではコミュニケーションの作法として、相手の《エディティングモデル》を見極めるという方法を学びます。

    例えば、仕事でクライアントからメールをいただくと、それまでだったらその文面だけを見て「こうするべき!」と近視眼的に思い込んでしまっていましたが、花伝所を出たあとはもっと視野を広く持てるようになりました。「このあいだの電話ではこうおっしゃっていたな」とか「あのときの打ち合わせではこんな様子だったな」「そういえばあの人の意図はどうなんだろう」など、1本のメールからバーっと背景情報まで枝葉を伸ばして探れるようになったんです。

    イシスの方法は仕事に直結します。式目の方法を使って仕事をしていると、難しい案件も対応できたり、「親切」とお褒めいただいたり、いいことばかりです。

     

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  • 宇宙×編集

    宇宙事業の「地」が変わる時代に

    JAXA|宇宙航空研究開発機構 広報
    東京都在住
    守 師範代

    肥後尚之

    2018年6月3日。360度地平線に囲まれたカザフスタンのど真ん中に、ソユーズ宇宙船が着陸しました。JAXA広報部としてその船に搭乗する金井宣茂宇宙飛行士の取材に来てくださった日本のメディアをサポートしました。

    ■国際宇宙ステーションは共生・協働の空間

    その時には、ロシア、アメリカ、日本の宇宙飛行士が乗り込んでいたので、3カ国の関係者たちが皆で一緒に温かく迎えました。長年携わっている国際宇宙ステーションも同様で、その中ではすべてを協働でやります。そこに政治は持ち込まない。そうしないと自分たちの命がかかっていますから。国際宇宙ステーションには、人間が共生・協働する実験という意味もあるように感じています。

    ■各国の異なるアプローチ

    ところが、他方で、各国の方法は様々に異なっていて興味深い。たとえば、宇宙では重力がないのでボールペンが使えません。そのため米国は無重力でも使えるボールペンを大金をかけて開発したが、ロシアは鉛筆を使うことにした。これは両国の設計思想をネタにした笑い話なのですが、一事が万事、本当にこのような調子で、何かあると一から開発して解決しようとする米国と、すでにある手近なもので解決しようとするロシア、この対比が本当に興味深いですね。こういうエピソードは、編集学校の守で学ぶ「地と図」に通じます。各国の考え方(地)が異なるので、出てくるソリューション(図)が全く変わります。

    ■宇宙事業の「地」が変わる

    今は宇宙事業の転換期だとみています。宇宙はこれから「地」をいくらでも変えられると思っています。というのも、今まで宇宙事業は国が行なうものでした。しかしアメリカでは民間企業がロケットを製造しているだけでなく、今までは使い捨てだったロケットを回収して再利用できるようにしました。これで打ち上げ費用が激減すると言われています。また国際宇宙ステーションに人を運ぶカプセルも開発中で、もうすぐ実用化されます。変わるはずがないと思っていた「地」が変わってきています。

    ■メディアの力で宇宙を伝える

    そうした変わりつつある宇宙について、多くの方に興味を持って頂くのが、JAXA広報としての任務でもありますが、編集学校に出会ってから、よりメディアの力を理解するようになりました。同じ情報でも、メディアによって伝わり方が違います。例えば「宇宙兄弟」という小山宙哉さんの人気マンガにご協力する機会がありましたが、マンガで表現されることによって、より幅広い層の方々に宇宙を身近に感じて頂くことにつながっています。松岡校長が近畿大学とつくったアカデミックシアターにも置いてあるそうです。『宇宙兄弟』は未来の話ですから、これからをシミュレーションしている気分になれるのもまた楽しいものです。

    ■編集をどう工学するのか

    宇宙と編集工学の接点は、実は丸の内にあったともいえます。2009年頃、JAXAは丸の内オアゾにオフィスがあり、近くに小さな展示コーナーを構えていました。また松岡校長がプロデュースした松丸本舗も、ちょうどその向かいの丸善オアゾにありました。よく通ったものです。これからは、工学を専門としてきた者として「編集工学」を捉えなおし、編集をどうエンジニアリングしていくかを、さらに探究していきたいと考えています。宇宙に興味を持った方々が、私という存在を通して、編集工学に興味を持ってくだされば幸いです。

    先達文庫
    湯川秀樹『宇宙と人間七つのなぞ』

    TEXT:松原朋子

    2018年7月末に種子島で公開した機体htv#7

    ソユーズ打ち上げ対応時、ソユーズ宇宙船の前にて

    NASA広報のGaryさん(左)と肥後さん(右)

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