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ISIS People

編集する人々

  • 居場所×編集

    ゆい」という集まりを再興する

    野村英司さんプロフィール写真

    寺子屋豆鉄砲 塾長(私塾)
    synapseオーナー(移動販売)
    愛知県在住
    守師範代

    野村英司

    従来型の「教室」という空間では、不特定多数の人たちとの関わりの中でお互いが学びあうことはなかなか難しいものです。でも実際にはそれがとても刺激的です。「寺子屋豆鉄砲」の青空ワークショップ活動では、子供たち同士が関わりの中で相互に学びあう場をつくっています。自身で考案したゲームを持ち出して、子供たちと楽しんでいます。

    ■地域の子供たちが集える場

    10年ほど前から、自宅で学習塾をひらいて、地域の子供たちが集える場をつくってきました。そのなかで子供たちの創造的な部分に触れるたびに、自分がどこまでどのように関わったらよいのかと、距離や深度を模索していました。そのヒントになるのではないかと考えたことが、イシス編集学校に関心を持ったきっかけのひとつです。

    ■塾の壁は全面黒板

    編集学校では最初のお題に回答して、師範代から指南をいただいた時に、まず教室の設えに感嘆しました。イシス編集学校の「教室」は、従来の学校教育で体験する教室とは違います。参加メンバーの回答とその思考のプロセスが共有されます。このことで生まれる自分への影響を、自分の設える場へも活かしたいと、すぐに学習塾の壁を全面黒板に改修しました。自由に黒板を子供たちが使えるようになって、みんな喜んで黒板に落書きをして、子供たち同士の思考のプロセスが共有できるようになりました。

    ■青空ワークショップで言葉や甲骨文字で遊ぶ

    今は、学習塾を飛び出して、青空ワークショップの活動に力を入れています。塾でやっていたゲーム性のあるコンテンツを持ち込んで青空教室をやると、不特定多数の子供がやって来て、学びあいの場になるのがおもしろいです。

    たとえば、ランダムに言葉を並べ、それをテーマにお絵かきをするゲームでは、テーマを聞いてまず大笑い。続いて絵を描きます。それぞれが表現した全く違ったものを見比べて再び笑いあい、次に他の場面をつくっていきます。また、甲骨文字を用いたワークショップでは、最初は文字の成り立ちに聞き入るばかり。続けるうちに「この甲骨文字は前のアレに似ているから~」とか「この文字の組み合わせは~」などと、子供たちがわいわい騒ぎながら、甲骨文字から漢字へとイメージの連想で考えていけるようになります。

    ■遊ぶように学ぶ空間づくり

    子供の感覚は本来柔らかいものですが、既に定義づけられたモノを暗記するという事を「学び」と捉えることが多いなかで、成長するにつれて柔らかい部分が失われていくように思います。遊びの延長に学びがあり、学びの根本に遊びがあるという事を体感できるようなワークや空間づくりに力を入れていきたいです。また、既にそういった活動をされている方や団体とネットワークしたいと思っています。

    ■世の中に、もっと「結」を

    編集学校で出会った「結」(ゆい)という概念は、元々、地域社会内の家で相互に行われる対等な労力交換、相互扶助のこと。日本の伝統的な社会にかつてから「結・講・座・連・組・社」などが躍如していたもので、何かコトがある時に人が集まってやり遂げる場のことをいいます。僕はそうした集まりが世の中にもっと再興するといいなと思っていて、子供たちが集う場をひらいたりしているのも、この結のイメージからです。結はお互いの創造性をさらに引き出す場となります。また、現在、街づくりなどで「共働」「シェア」と新しいアイデアかのように喧伝される言葉は、忘れられつつある結の要請とも感じます。

    多元的な「関わり」を通して多くの自分の側面に気がつくことは、柔らかい子供の感覚を醸成することのみならず、社会的弱者にとっての心地よい居場所をつくることにもつながる方法ではないでしょうか。

    先達文庫
    小菅桂子カレーライスの誕生

    TEXT:松原朋子

    子供たちの連想力を引き出す甲骨文字を使った青空ワークショップ

    子供たちの想像力を刺激する全面黒板

    地域の子供たちが集う寺子屋豆鉄砲

  • 建築×編集

    未知に向かう場づくり

    岩田章吾建築設計事務所
    武庫川女子大学教授
    大阪府在住

    岩田章吾

    小さい頃からなんでも腑に落ちたくて仕方なかった。編集学校に入ったのも、大学や大学院でも満たすことのできなかった知の渇望があったから。得たものは多く、とくに[離]で出会った世界観や院の仲間からは得難い刺激をもらいました。

    ■「明白な未知」を世界に残したい</font color>

    建築は世界に痕跡の残る仕事です。表現メディアとしては遅くて重くて(コストが)高いという特徴がありますが、だからこそ意義がある、現代において100年、200年とモノが残るということ自体が社会という舞台の継続性を示すことでもある。道はハンナ・アレントヴィトゲンシュタインといった先達が示してくれている。
    今はいくつもの断続をはらみながら古代から続く歴史の物語群の一幕。時代の空気である「あいまいな既知」から解放された「明白な未知」の建築をつくっていきたいです。

    ■新たな価値を提示する建築を</font color>

    私は今、建築家の仕事に加えて、大学で建築史を教えたり、こども建築ワークショップなどの社会活動にも参画したりしています。2011年に「えいの里保育園」(兵庫県主催・第16回人間サイズのまちづくり賞受賞)の園舎を設計した際は、「場」はつくるが子供たちの行為は規定しない建築にしようと考え、園庭をコの字型に囲む木造園舎の大屋根の下の空間は自由に走り回れる場としました。
    建築はクライアントと建築家のインタースコア。クライアントが喜ぶだけでは充分とはいえず、それを超えた価値を提示することが大事です。場所の歴史や文化、クライアントのこれまでの暮らしをどのように編集し新たな価値を見出すかが建築家の役割です。

    TEXT:福田容子
    EDIT:長田陽子

    えいの里保育園

    「ちびっこうべ2014」こども建築ワークショップ

  • 地域×編集

    一座を編集すること

    ヴァンキコーヒーロースター
    名古屋支所「曼名伽組」組長
    愛知県在住

    小島伸吾

    編集稽古での学びは、個的な表現活動でなく、他者との関係において「共」的に実践されゆくものです。
    美術学校で版画を学んでいた頃、版画の「型」について本来的なことを知りたかった。でも「型」を語れる教授どころか「方法」を意識する美術家すら周囲にいなかった。「型」を「写す」とは、いったい何なのか? ずっと探し続ける中で編集学校との出会いがありました。

    ■「面影」を方法化、共有したい

    私は今、近代以降に失われつつある「面影」のコンセプトを研究し、方法化し、どうすれば新たな実践に移せるかに挑戦しています。これは松岡さんと同時代に生きる者の責任です。私たちの活動が次世代へのジョイントになり、職人、芸能、芸術などの世界で「面影」が共有していけることを目指します。

    その取り組みとして、私は他者との関係をつくるための4つの場、「店」「座」「講」「組」を作っています。まずは「店」。仕事場でもあるヴァンキコーヒーロースターです。ここはいわば編集を仕掛ける“装置”です。

    初めは店だけでイベントなどを企画していましたが、活動領域に限界があり、『ナゴヤ面影座』と『番器講』を設けました。これらの場では、講演企画、ライブ演奏、読書会、紙芝居上演などを開催しています。また、2003年の立ち上げ以来活動を続けている編集学校の名古屋支所「曼名伽組」の活性化も継続中です。

    ■動的システム「座」を社会に投じる

    編集学校では「もてなし・ふるまい・しつらい」を大事にしますが、イベント現場で自分なりに実践していると、入念な用意と本番での卒意の相互誘導合致を感じます。そして会の導入や閉め、転換時の「際」の重要性。他者と一つの世界を作り上げていくひとときは、「思考の速さ≒深さ」が問われる絶好の編集機会です。

    今、自分のミッションとして捉えているのは「2050年までに、世の中に何が引き継げるかということです。2000年に始まった編集学校の取り組みの延長として何ができるか。当面は『ナゴヤ面影座』において、動的な方法そのものである「座」というシステムを考え、同朋を集め、ベースづくりをしたうえで、モノづくりや表現活動を展開していきたいと考えています。

    「私」でもない「我が社」でもない「座」という生命体を社会に投じて、世の中を編集していきたいです。

    先達文庫
    アントナン・アルトー『ヴァン・ゴッホ』
    ジョイス『若い芸術家の肖像』

    TEXT:植田フサ子
    EDIT:長田陽子

    第三講面影座「量子の国のアリス」。佐治晴夫博士を客人に、帽子屋に扮して

    面影座の各講ごとに刊行しているブックレット「Ur(ウア)」

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