2012.8.13   [おしらせ]
「新しい新潟づくり」へ、編集術でスタート

こんにちは、イシス編集学校の導匠を勤める大川雅生です。今回は

新潟市で3回続けて開催した「えちご門前指南」について、レポー

します。合わせて、新潟での松岡正剛校長の活動や、編集学校の

えちご同門の皆さんの様子もご紹介いたしましょう。

 


◎松岡校長の講演がきっかけに

いま日本各地で、イシス編集学校のOB(「守」「破」「離」などの

コース修了者)の方がさまざまにご活躍中です。北海道から沖縄ま

で、行政から民間まで、ネットビジネスから街づくりまで。今回ご

紹介するのは、「街づくり・新潟篇」のプロローグです。

「えちご門前指南」のきっかけを作ってくださったのは、イシス編

集学校、第一期生の日下部朋子さん。東京で企画プロデューサーを

されている日下部さんは、新潟市のご出身です。首都圏での仕事の

かたわら、故郷の再生をテーマに活動をされてきました。

 

なかでも年来の夢が叶ったのが、昨年2011年12月に開催された「に

いがた未来フォーラム」。敬愛する松岡正剛校長とご自分の高校の

先輩でもある篠田新潟市長の縁をとり結ぶことから、数年に渡って

人脈づくりとテーマの想定まで、じっくりと準備されてきたプラン

の実現です。2019年に開港150周年を迎える新潟市。これからどん

な街へと「再編集」していくべきか。行政から市民まで一体となっ

て、考えていくきっかけにしようという狙いが込められた集いです。

当日は120人が熱心に聴講され、「新潟の姿と魅力と課題がわかっ

た」「こんなフォーラムを待っていた」と、たいへんな評判になり

ました。

 

フォーラムは二部構成でした。最初に「日本という方法」という

テーマで、松岡校長が講演します。日本の文化を貫く「対」「番

(つがい)」という考え方は、「みのり」と「いのり」、「あわれ」

と「あっぱれ」、「物(モノ)」と「霊(もの)」というように、

両義性を生かし続けてきた。「物事を対で捉え、あいまいで移ろい

やすい関係性に価値を見いだしてきたのが日本という方法だった」。

そこから新潟の文化、歴史、土地の魅力、新潟の「ウラ」と「オモ

テ」の両方を大切にする視野にまで、話は広がります。


次に、篠田昭新潟市長、大熊孝新潟大学名誉教授との鼎談「新潟

描くべき未来の姿」がそれを受けて盛り上がります。縄文時代の火

焔土器、雪や信濃川や日本海など、「火と水」の豊かな歴史をもっ

ていた新潟。「都市と農村」が一体である新潟。さまざまな姿や魅

力が取り出され、これからの新しい新潟をつくるために、歴史を振

り返り、具体的な視点が交わされました。その内容、様子は「にい

がた市報」で詳しくレポートされています。ぜひご覧ください。(*1)

 

 

そして、この松岡さんの講演がきっかけとなって、日下部さんが中

心になり世話人を募って「えちごSeigo童子の会」が結成され、今回

の「えちご門前指南」を始動させてくださいました。「門前指南」

はイシス編集学校の創設期より、大川が赤坂の編集工学研究所で毎

週開催している「編集術ワークショップ」。各地へ出向く「出前・

門前指南」も北海道から沖縄まで、30回を越えて、開催してきまし

た。「えちご門前指南」は通常と違って、第一期全3回の連続開催

でした。概要と次第などをご紹介しましょう。

 

 ◎日本と新潟の「編集知」を活用して

今回の狙いは、「松岡正剛の編集の方法」を学び、「新しい新潟づ
くり」に活かすための準備です。いわば、「街づくり」へつながる
編集術のアプローチ。この手強い「お題」に応えるために、日本と
新潟に関する情報や知を素材として取り入れようと考えました。ひ
とつは、日本文化のマザーモデル。これは昨年、経済産業省の肝い
りの日本文化戦略プロジェクト「クリエイティブTOKYO」のコンセ
プト・メディア『面影日本Roots of Japan(s)』に掲載されたもの。
ネットで松岡正剛の講演が配信されて大きな話題ともなりました。
そのうちの一部を編集企画作業の参考に適用(*2)(*3)

 

さらに、毎週『週刊ポスト』(小学館)に掲載中の「百辞百物百景」
(*4)。大胆な構図の写真と日本文化の真髄を紹介するエッセイは恰好
の素材です。なんとも絶妙にテーマにピッタリ合った素材たち。誰
でもが使えるカタチで、しっかり揃っている松岡校長の「編集知」
を見逃す手はありません。

 

ご参加になった皆さんも多彩な顔ぶれでした。お仕事は行政、メディ
ア、教育、文化関係と、まるで街のキーマンたちが勢揃いしたかの
よう。年齢層も新潟の文化活動をリードするプロデューサーから、
フレッシュな大学生まで。同じテーブルで顔を合わせ、ぞんぶんに
語り合い、一緒に「新潟の編集」を楽しまれました。女性陣がとて
も元気だった初回から、男性陣もだんだんと盛り返して、都合3回
の開催で約70名にご参加いただきました。

第1回(2月19日(日)開催)。新潟市内では珍しい大積雪の冬

 

◎「イメージのマネージ」新潟編

さて、プログラムの内容も共有しておきましょう。ワークショップ
は新潟の情報に「注意のカーソル」を向けることからスタートしま
した。最初の「お題」は、誰もがショックを受ける「イメージング・
エクササイズ」。門前指南の地域版「参座」でも人気のメニューで
す。「アタマのなかにあるイメージをどれだけ取り出せるか」とい
うテーマのもとに、次々とデッサンします。たとえば、万代橋、火
焔縄文土器、新潟市の市章など、また新潟県や佐渡島のカタチと位
置はどうなっているかなど。「えっ、どんなカタチだっけ?」「こ
れなら描けるかな!」と、イメージをぐいぐい追いかけて、新潟の
資源のカタチを確認していきました。

さらに、編集用法のワークにも毎回、挑戦。「要約」「連想」「言
い替え」など、数多い編集技術のなかから基本となる用法を取り出
して、スピーディにトレーニング。ここまでがウォーミングアップ
をかねた前半です。

そして、後半のワークは企画課題に挑戦です。チームごと、個人そ
れぞれの新潟観もしっかりと交わしながら、ディスカッション、コ
ラボレーションを重ねます。回ごとに違った視点で、「新しい新潟
のビジョン」、「越後のお勧め観光企画」、「新潟の夢や課題を本
で探る」と、未来へ向けた相互編集。最後は、気合いを込めたプレ
ゼンテーションで、編集の出来映えを競っていただきました。

 

新潟観光企画の「審査員」役に孫犁冰さん、松田暢夫さん、江口歩さん

 

このワークで手がかりにしたのは、『面影日本Roots of Japan(s)』
で紹介される価値創出の編集モデル。日本の「おもてなし」や「お
祭り」などの仕組みを参考にします。また、「百辞百物百景」に綴
られた日本文化のコンテンツも企画の素材として活用。なかでも、
「苗代」「囲炉裏」を素材にしたディスカッション(第二回実施)
は、論議白熱。大切な場所で稲の苗を育てる日本流インキュベーショ
ンを現代にどう活かすか。「さすが、お米自慢」の土地柄と、皆さ
んの熱中と集中の様子に驚かされました。

 

第2回(5月13日(日)開催)。日本と新潟を関係づけるワークに夢中

 

◎「新潟の知」を書籍で共有

今回は書籍も大いに活躍。2回目から実施した「私の好きな新潟の
本」の持ち寄りは、皆さん、たいへんノッていただきました。持参
したお気に入りの一冊を使って自己紹介し、「観光」をテーマにし
た企画に活用。その好評を受けて、3回目では持ち寄り册数を三冊
に。書籍に自分の好みや新潟の夢や課題を託して、チームごとに情
報を共有。また、その関係を編集の「型」を用いて、読み解いてい
ただきました。食と酒、街と人、書と文学など、「新潟の知」がハッ
キリしたカタチで扱えたのは、本のチカラのおかげです。

第3回(7月1日(日)開催)おなじみの顔ぶれに今回は学生さんも参加

また、途中で松岡流読書法「多読術」のポイントもスペシャル・
レッスン。これは、丸の内・丸善の松丸本舗で、「本稽古」なる読
書法ワークショップを毎週やっている大川ならではのワークです。
書籍を素材にすることで、街の特徴や課題や自分との関係までがラ
クに共有できて、討議しやすくなったのは大きな発見でした。街の
流行にユニークな視点で切り込んだり、文化の本来のあり方を探っ
たりと、「新しい新潟づくり」のいろいろな視点が持ち出されまし
た。まさに松岡さんの「本には世界のすべてが入っている」を実感
する、エディトリアル・ブック・エクササイズを堪能しました。

 

一人三冊の本を紹介して、その関係を相互編集していく

 

◎編集術を学ぶ手応えあり

3回の開催を通じて、地元「我が街」の情報を自在に使った編集コ
ラボレーションの面白さ。そのプロセスで感じる編集の醍醐味。い
ろいろなことに気づき、確認したり、戸惑ったり、新しい理解の
きっかけなども得ていただいたようです。

今回の手応えのひとつは、まず「自己編集」に興奮。自分の感じて
いることや知っていることを、出会った同士で交わし合ってみるこ
と。これはとても面白かったと思います。そして、「相互編集」に
発奮。同じ方法を共有して、初めて見えてくる価値と可能性。毎回
のように、確信を深めあったことは間違いありません。これからの
プロジェクトの変化が楽しみです。

最後に、毎回の準備に奮闘してくださった当番幹事の皆さんに御礼
申し上げます。
本好きでブックバーを経営して、夏前には酒蔵の商品企画に転職さ
れた豊島淳子さん、津軽三味線のアーティストのマネージャーとし
て全国を飛び回っている若山裕伸さん、BSN新潟放送のお仕事と毎
日酒蔵の方との打ち合わせで夜まで忙しい島田穣さん。たいへんお
世話になりました。

第3回の出席者の皆さんと初の集合写真

 

◎ご参加者のなかから学生、編集学校のOB、世話人の皆さまから

いただいたメッセージをご紹介します。

 

参加者・山内麻衣さん

(新潟青陵大学短期大学人間総合学科2年)
<孫先生に連れられて第3回に出席しました。活躍されている社

会人の方と一緒に議論してドキドキでした。それぞれが持ち寄っ

た本を紹介し、分類する作業では「私のこんな意見を聞いてくれ

るのかな」という不安がありました。でも、「なるほど、そうい

う分け方もあるね」と言ってもらえた時は、とてもうれしかった

です。ほかの人の意見を聞いて「こんな捉まえ方、分け方は思い

つかない!」と、終始ビックリでした。今回の体験から、本を読

んだ感想や意見は自分に止めておくのではなく、周囲の人と共有

しあう方が良いと学べました。これが編集の方法のおもしろさな

のか、と気づきました。これから編集術を学びたいと思います。>

 

参加者・大勝孝雄さん

(新潟市地域・魅力創造部 イシス編集学校・第26期「守」麻色レンジャー教室)
<第二回目に『週刊ポスト』掲載の「百辞百物百景」の記事、

「囲炉裏」について議論したことが、強く印象に残りました。そ

れぞれが想い抱く「新潟」のイメージを膨らませ、どう伝えるか

を考え、論議し、発表する作業は、これまでのワークショップで

は出会ったことのない新鮮な体験でした。囲炉裏にぶら下がる自

在鍵の写真1枚から、家族や里山の暮らし、「新潟らしさ」が頭の

中で広がりのある風景として浮かびあがって、面白かった。編集

術を学んで、多くの方々と出会い、自分のものの見方が変わって

きているな、と嬉しく実感しています>

 

世話人・佐藤隆夫さん

(BSN新潟放送・社長室長)
<「新潟が持つ、極めて高い潜在能力を引き出したい」。松岡正剛

さんという強烈な個性とその編集工学で引き出せたら、新潟の「場」

が面白くなるのではないか。そんな想いで、3回の「えちご門前指

南」を体験しました。最初は「テクニック先行かな?」と思いきや、

非常に根源的で、いろんなことに応用可能な充実した内容。自分自

身の立ち位置を自在に変えながら、物事の本質を見つめ直す良い機

会となりました。ご参加になった皆さんも、多様な新潟の姿を見せ

てくださり、「場」で共有できたのも嬉しい手応えです。続けて、

新潟の未知の資源の発見に挑戦していきましょう!>

 

世話人・孫犁冰さん

(新潟青陵大学短期大学准教授 イシス編集学校・第27期走卵道心教室)

<中国人の私にとって日本語は難しくて、楽しい。無味乾燥な業務

用常套語もあれば、滋味豊富な傑作・秀作・佳作もある。でも、そ

のすべては、「編集」の目的や方針、手法によって制御できると感

じている。これが、面白い。いま編集術を学び始めた私にとって、

松岡校長先生の「千夜千冊」の解読はS級グルメ、古今東西の思想や

学問を稽(かんが)えることでもある。そして、イシス編集学校で

学ぶ日々。散逸状態の編集素を組織化する作業は、日本語を巧く操

る本番前の下稽古だ。どちらもしっかり堪能して、新潟に生きる私

の「知の心身」の栄養にしていきたい。>

 

世話人・日下部朋子さん

(J-CLUB代表 イシス編集学校・第1期彗星庵教室)

<「新潟を再編集したい!」。そんな熱い気持ちを持って「えちご

門前指南」を開催しました。ご参加の皆さんにも、松岡正剛さんの

方法を学ぶ意味や手応えをタップリと感じていただけたと思います。

でも、この3回はまだまだ入口。編集稽古の先に広がっている「知

の海」へ向って、踏み込んでいきたい。私たちが実践的な編集力を

身につけていくことで、新しい、面白い新潟が作れる。その端緒を

確信した機会となりました。私自身もかつて学んだことを振り返り、

さらなる編集的変化を目指したいと燃えています。変わらなきゃ!>

 

(*1)http://www.city.niigata.lg.jp/shisei/koho/kohoshi/shiho/backnumber/h24/120108.files/2341_4.pdf

(*2) http://es.isis.ne.jp/topics/?p=1436

(*3) http://cooljapandaily.jp/policies/roots-of-japans.html

(*4) http://www.isis.ne.jp/seigowchannel/

(注)『面影日本Roots of Japan(s)』の一般配布は終了しました(経済産業省)。

 

(イシス編集学校 師範・導匠・評匠 大川雅生)