■すべてをそそぎこむ意気で

―校長に本気のものを預けなさい。
 そうすれば、見違えるほどの「世界」に出会えるはずです。

 2009年3月7日正午、火元校長・松岡正剛のこのメッセージから、第5季[離]校長直伝プログラムが開講した。受講条件である課題審査をクリアした学衆は全33人。うち17人が「耽像院」(たんぞういん)に、16人が「遊境院」(ゆうきょういん)に“入院”し、初日からさっそく配信の始まった「文巻」(ぶんかん)にいっせいに向かった。
 指導陣である「火元組」(ひもとぐみ)には、[離]創設メンバーでもある太田眞千代・相京範昭・倉田慎一の3別当とともに、新たに成澤浩一・土屋満郎の二人が「別番」として、川島陽子・野嶋真帆が「右筆」として、広本旅人が「半東」(はんとう)として参画、全体を率いる太田香保総匠を加え、総勢9人が火元校長の意を汲んで二院にZESTを焚きつけていく。
 1年前に第4季[離]を受講し、栄誉ある「典離認定」を受けた土屋別番・広本半東からはとりわけ熱い激励が学衆に贈られた。

土屋:[離]は自分との戦いです。安易に納得してはいけません。一世一代の大勝負。形振り構わず、とことんまで、やり尽くしてください。
広本:思えば去年の今頃、すべてを注ぎ込む意気で開講に向かいました。その興奮を思い出しながら、今回、ぼくも新たな挑戦に臨みます。

■秘伝の「文巻」と「千夜千冊」の秘密

 「文巻」(ぶんかん)は、毎季、火元校長による加筆が施されバージョンアップしつづけている。書籍にすれば500ページを優に超える大著であるが、未来永劫、離学衆にしか公開されない秘伝の書である。この「文巻」を丸呑みしつつ、さまざまな手法の「お題」を通してその行間に書き込みをしていくことが、「校長直伝プログラム」ならではの編集稽古となっていく。
 さらに、火元校長は[離]開講中も次々と更新する「千夜千冊」を通して、あるときは暗示的に、あるときは明瞭に、離学衆に対して新たな「世界読書」のヒントを出し続けていく。[離]の共同学習の場である「離れ」では、太田眞千代別当がこのようにしてもたらされる最新「千夜千冊」への関心をつねに喚起しつづける。
 第5季[離]開講後間もない3月20日の「千夜千冊」第1290夜には、なんと「火元」と「学衆」による対話スタイルによってジュリアン・ジェインズの『神々の沈黙』が取り上げられた。「世界読書」の伝授という[離]のあり方そのものを世に知らしめつつ、秘伝の「文巻」に触れ得た学衆だけにとっておきのヒントをもたらすという、松岡正剛ならではの“離れ技”である。

【火元】ストラクションというのは、「インストラクション」
     (教示)と「コンストラクション」(構築)の両方の
    意味をこめたもので、ジュリアン・ジェインズという
    比較心理学者がつくった言葉でね、人間の連想的思考は
    意識とは関係なくとも、ストラクションでもけっこう
    進むというんだね。つまり、自分にストラクションを
    仕掛けさえすれば、こういう連想はうまくいく。
【学衆】おもしろいですね。

(千夜千冊第1290夜『神々の沈黙』より)


■火元校長の編集的世界観に触れる

 5月23日には恒例のリアルセミナー「表沙汰」が開催され、火元組と離学衆が一堂に会した。
 開講以来12週間を経て、「耽像院」「遊境院」「離れ」では、メール発言数にして1万を超える濃密な編集稽古と編集指南が交わされてきた。いよいよ「退院」という目標に向かって、二院も火元組も一丸となって世界読書稽古の総仕上げに入っていくタイミングである。
 16週間にわたって高速かつ大量の編集稽古をこなし続けなければならない[離]は、どんなに意欲的な学衆であっても決して順風満帆のまま通過できるものではない。誰もが多かれ少なかれ座礁を体験していく。そこを「院」という場の力とともに乗り越えてこそ、「退院」の意義がある。「表沙汰」は、火元組の熱意あふれる叱咤激励を受けながら学衆がそのことを十二分に自覚するための絶好の機会である。
 火元校長からも毎季、それぞれの季のモードに合わせた特別講義が行われるが、今回の「表沙汰」では、「在点」を動かすという編集的存在学が開陳され、離学衆の胸を抉ったようだった。
 「表沙汰」のあとも、赤坂の編集工学研究所で火元組も交わって歓談を楽しむ「陶夜會」が明け方まで続いた。


■「離論」から退院へ―それぞれの輝ける在点

 6月29日正午、 [離]のすべてのプログラムが修了し、二院が閉じられた。ただし「退院」のための最大の難関である「離論」提出がその3日後に控えている。
 16週間にわたって「院」の学衆仲間とともに精進しつづけた「世界読書」の成果を、最後はそれぞれがたったひとりで仕上げなければならない。閉院から「離論」締切までのこの3日間が、離学衆にとってもっとも長くつらい修業期間なのかもしれない。

 「閉院」から約3週間を経た7月18日、イシス編集学校「感門之盟」において第5季[離]の退院式が挙行された。火元組にとっては「閉院」からこの退院式までが、もっとも心身の疲労を抱える日々となる。提出された「離論」を精読し、5年間で培った[離]の伝統とともに、変化していく[離]の前衛を見極めながら、その内容が「校長直伝プログラム」修得の証としてふさわしいのかどうかをジャッジしなければならないのだ。

 こうして、退院式会場である時事通信ホールに、「離論」審査をクリアし退院認定を受けた全27人が集った。ひとりひとりが幾多の暗礁を乗り越え勝ち取った「退院」である。その“証”である「退院認定証」を授ける校長も、それを見守る火元組も、思い思いの祝福の言葉を投げかけながら、壇上で輝く学衆たちの「在点」に目を細めていた。


別当会議に集った火元組(編集工学研究所)


「表沙汰」では火元組がまじわって
グループディスカッションも行われた


 



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編集稽古の進捗を確認する火元校長
「遊境院」を預かる倉田別当・成澤別番
「耽像院」を預かる相京別当・土屋別番
図解力を駆使して「文巻」研究を展開した
野嶋・川島右筆コンビ




「方法」によって「方法」を語る
火元校長の圧巻講義